改稿.2016/04/29...2016/03/12...
俺の名は夕向凸激(ゆうむかいとつげき)、この春で小学五年生だ。
親の仕事の都合で、また引き続き分校に通うことになった。
何でも今度の分校では、中学も一緒らしい。さらにへんぴな所に行くことになったようだ。
‥正直、気が滅入りそうになったが、仕方がない、これも何かの縁なのだろう。
‥そしてそれはチャンスでもあった。
「分校通いは決して人生の負け組なんかじゃないッ」
俺は、前の小学校での恩師との目標を、次の学校でも決行することに決めていた。
話のわかる担任であることを願って、
始業式前の旭丘分校に、俺もわざわざ親と一緒に挨拶しに来ていた。
「‥ということで
我が校の授業は、基本的に問題集を使った自習スタイルになっています
現在の在校生は‥春から、中学二年生が一人と小学四年生が一人です
夕向くんで三人になるね」
「‥あのさぁ先生」
「なにかな?夕向くん」
「‥わりぃんだけどさぁ、俺、前の学校もそれと同じだったからさ
そこの先生との挑戦でさ
小学校時代に中学課程を終わらせようってことで、去年の内に小学校課程終わらせたんだ‥
だからさ、この春から中学の勉強したいんだけど、普段の授業時間に好きにやっても良いかな?」
「????、何言ってるのか先生よくわかんないな、夕向くんもう一度言ってくれるかな‥」
「だ・か・ら、
問題集の自習形式だろう、先生が俺の飲み込みが良すぎて教え甲斐がないから
どんどん進めて良いってことで、三月に、小学校課程の問題集6年の奴まで全部終わってんの!」
「へぇ!?」
「そうなんですか?お母さん‥」
「実は私もそんなことはつい最近まで知らなかったんですけど、引っ越してくる以前に
中学生用の参考書やら英語の勉強用に電子辞書やら買わされました」
「買ったんですか?」
「買わされました(キッパリ)、ついでに公文やら進研ゼミやらとねだられました」
「中学生用でやってるんですか?」
「いえ、まだ半信半疑ですので、中1問題集を投げるかどうかの様子見です」
「そうですよね‥」
「もう、母ちゃんは余計なこと言わなくて良いよ。俺の挑戦なんだからな」
「・・・じゃ、今からテストしてみようか?」
「おう、望むところだッ
テストをパスしたら、この春から中学課程で勉強しても良いんだよな?」
「う〜ん、それとこれとはべつね。小5の課題問題集は授業時間の間にきっちりやってもらうよ」
「そいつを家に持ち帰るのは?」
「宿題もちゃんとしてきて貰うよ」
「チッ、しょうがねぇなぁ‥
せっかく中学の間に高校課程も終えようと考えたのに‥
これじゃ、計画を繰り上げても、どこまでできるかわかったもんじゃないな‥
中学もセットの分校だって聞いたから、大幅な繰り上げを自分で考えたのにさ‥」
「ひとつ聞いても良いかな?」
「なに?宮内先生」
「どうしてそんなに繰り上げて勉強しようとするのかな?」
「そりゃ先生、分校生だからだよ。分校という環境と学習形態を組み合わせた結果
他の学校の生徒に後れを取らないためにも、先手を打って学習を進めておかないと、
とくにこの分校からだと‥高校に通う時になって、勉強を気にしていては
十分に部活動を経験することも、友だちづきあいも‥かなわずに十代が終わりかねないからさ
他の人たちよりもずっと人付き合いの少ない道を歩かされちゃってんだぜ、先手打たなきゃだろう
‥前の学校の先生だってさ、
分校という辺境の教師になってしまったのだから尚のこと
何か自分の支えになるような結果を残したいって言ってたぜ。先生はどうなのさ?」
「へぇ?」
「へぇじゃなくてさぁ、先生は、分校という辺境の教師になってしまった先に何を見てんだよ?」
「その先生も口にしてたぜ、こんな少人数のところでしか教師業できないのでは
大勢の生徒の前で十分に教えられるかどうかがとても不安になるって」
「・・・夕向くんって、以前の先生とは随分と親しかったんだねぇ」
「まぁな、その先生とは一年生からの付き合いだったからな
あと、二つ下の奴で、勉強の飲み込みのまずいのが居てさぁ、
先生そっちに掛かりっきりで、そっから俺だけ自習状態だったからお詫びのつもりか、
宿題もほとんど無しで、ますます目標の方が優先になってたな‥」
「ふーん、そっか、ここでの生活も楽しくすごせると思うよ
とりあえず、テストはじめよっか‥」
「‥じゃ、母ちゃんは先に帰って良いぜ、俺、終わったら先生に送ってもらうよ」
‥それから
旭丘分校にひとりだけの教師、宮内一穂は、夕向凸激のテストの結果を見て驚愕していた。
試しに、手近にあった小六のテストをプリントして与えてやらせてみたところ、
四教科全問正解という程ではなかったにせよ、制限時間を使い切らずにさっさと終えていたことから、
十分に理解ができているように思えたからだった。まだこの春から小五だというのに‥
そして胸に突き刺さってしまっていた‥
「先生は、分校という辺境の教師になってしまった先に何を見てんのさ?」という凸激の言葉に‥
宮内一穂は、すでに、夕向凸激の要望を受け入れざるを得ない自分を見つめていた。