1-3)改稿.2015/09/17...20100820...
> NKH番組、33か国共同制作
> 「民主主義」―世界10人の監督が描く10の疑問シリーズ第七回:パキスタン“大統領との晩餐”
‥映像は、パキスタンの喧騒を離れ、夕暮れ時のパキスタンの素朴な農村だろうか。
土壁と藁葺き(?)の広さ一間程の家が映し出されていた。
その家の家族の身なりは、イスラム圏特有の飾り気のない白のいでたちだった。
薄暗くはっきりしないが、家の中には家財道具というものが見あたらない。
家族はムシロの真ん中にランプを灯し、薄暗くなり始めていた外で夕食をはじめた。
家族の中にいた家長らしき立派に白い髭を蓄えた老人が、撮影スタッフに声を掛けた。
「一緒に食べる?」
「結構です。」(スタッフは無言でそう答えた様子)
皿に盛られたパンはナンだろうか。
それと‥お茶だろうか、水だろうか‥カップに注がれていた。
老人は腹ぺこだったのか‥家族に先んじてパンに何かを軽く付けて食べ始めた。
‥その日の一家の夕食の食卓に上ったのはそれだけだった。
‥老人にインタビューをする予定もあってか
シワやホリの目立つ老人の顔は、夕暮れ時の色彩のせいもあり、
あまりにも被写体として魅力的に映し出されて見えた。
そんな光景を前に、撮影スタッフは老人にインタビューをはじめた。
1-3)1
> 質問の内容は番組の趣向だろうか‥如何にもと思える突飛な質問が投げかけられた。
> もしあなたがパキスタン大統領だったら…
> 何だって?
> もしあなたが大統領になったら何をしますか?
> わしら貧しい者には分からん
無愛想にもそう言うと、老人は手元に置かれていたランプの明かりを自分の手で調節しながら、
敬虔なイスラム教徒らしい言葉を口にした。
> 神が人間を作りたもうた
> 神は人間に忍耐力をお与えになった
> 神が望めばわしらは幸せになれる
> すべては神の思し召し次第だ
> 与えるのは神なのだ
> どこにでも神はいらっしゃる、ここにも、そこにも‥
> 分かるか?
> 老人の言葉も映像もそこで終わった。
> この老人の言葉が魂的にえらく懐かしく思い、書き出してみた
町のインタビューに出てきた、幾分暮らしぶりの豊かそうなイスラム教徒たちは、
仲間同士でいろいろな意見を交わし合っていた。
‥そのどれもは番組の都合上だろうか
イスラム教徒と民主主義と軍事政権の在り方について論じられていた。
その番組映像の締めくくりに、この老人の言葉が訪れた。
老人の言葉は、信仰に対する素朴な視線をどえらく投げかけて見えた。
貧しきゆえの信仰、貧しきゆえの生き様、貧しきゆえの共生感。
老人の言葉には、ゴタゴタした政治論を一蹴りにしてしまうだけの魅力があった。
1-3)2
> 番組の趣旨は、「民主主義と軍事政権は成り立つか?」‥だった
> 日本人からすれば、かつて通ってきた道だ。(おまけに信仰も絡まる)
‥日本人とイスラム教圏のそこの違いと言えば
戦争誘導型政治の米国に対する「強さ」への憧れが有るか無いかと言えるだろう。
そこに絡んだ文化全体への協賛としても、日本の欧米化は進んできた。
しかし
イスラム教圏の側には、日本人がかつて抱いたような欧米へのあこがれはあまり感じられない。
パキスタンのイスラム教徒の人たちを‥映像から伺う限りでは、
教育の普及にそれなりの関心を示しつつも、彼らの生活にはコーランが前提にありきだ。
‥そこに、民主化を軸にした生活観の変貌などありえないと言わんばかりにある。
その点、日本の軍事は昔から概ね合議制を信条にしていたから、
「民主主義と軍事政権は成り立つか?」など考えもしなかっただろう。
> ただし、信仰上の違いにある‥多神教と一神教からの影響の差は否めない
多神教だからこそ、多様性を受け入れるよすがが大きい。
一方の一神教には、それほどの器が無い。
‥その証拠に、日本の文化全般に理解を示すのは、
多神教の文化圏だったり、歴史的な宗教文化の入り乱れた痕跡を持つお国柄だ。
更に特徴的なのは、
その手の文化圏においてすら、積極的に外の文化を取り入れるようなことをしない。その点に尽きる。
外の文化をバランス良く取り入れ、自分たちの善さを残しつつ保つのは至難と言えるのだろう。
日本人はそう言う意味でも、世界の変わり者だ。
‥そんな民族が優秀でなかったとしたら、そっちの方が不可解だ。
そんな日本でも、信仰心は大幅に後退した。
一神教から端を発した文化は、多くの点で二極化をもたらしている。
民主主義という名目は、とくにそれの象徴とも言える中身にある。
欧米の話し合いの前提は、常に対比だ。
「右と左を比べてどちらがお得か?」という思考しか求めない。
‥その話し合いを以て、民主的と言い放っている。
> それ以外の提案を聞いたことがあるだろうか?
まず先に、自分たちから主張を言い散らかし、その是非を問うのだ。
その時、相手の意見など論外に置かれる。
たまには君からも意見を言うべきだという見解にしても、自分が困り果ててからだ。
それにしたって、半分は脅迫めいている。
調子の良い時には‥一切、重要な決定に関わる質問を投げかけることをしない。
特に、一度決まった自分に有利な条件を
公平な視点から見直そうなんてアイデアは口が裂けても持ちかけない。
‥世界で一番を自負する側がそのようだと、それに付き合う周りもそんな感じにしかならない。
そんな言い分は‥まさに、俺からの思し召しと言わんばかりだ。
1-3)3
> {米国が一番を自負する}={神と言わんばかり}
どれだけ身勝手な神なのだろう。
他者の主体性の多くを否定する。本当の意味での話し合いなどない。
誰かが神を口にし出すことで、絶対的命令を意図させる。
それが西洋的一神教の世界観だ。
一神教を主張する神やその民族との話し合いとは、服従するかしないかの選択だ。
負けず嫌いも甚だしく、まずは争いを仕掛け、その頂点を極めんとするばかりだ。
‥そんな宗教観しか持てぬ世界が、民主主義を正確に理解しているとはとても思えない。
> 老人の言葉にこうあった。
> どこにでも神はいらっしゃる、ここにも、そこにも‥
> 分かるか?
老人は自ら進んで豊かになろうとの考えはどこにも持ち合わせていなさそうだった。
それがどうあれ、その姿勢は粗末な食事の姿からも伝わっていた。
屈託なく隣人にも分け与えようとしている姿はインタビューからも伺えよう。
‥それは、神の恵みを貪る必要を感じていないからだ。
> 与えるのは神なのだ
その言葉は、命実にそこを語らんとしていよう。
老人の一貫したポーカーフェイスからは、人生に対する欺瞞も不平も上の空に思えた。
同じ一神教からの信仰なのに、随分と穏やかな言葉を放つ。
否、一神教の信者だからこそだろうか‥
‥神に取って代わらんと試みんばかりの輩にしてみれば、決してこうはなるまい。
> 公平且つ必要最低限の思し召しと言えば、神に生かされているとの中身に尽きる
それ以外に公平なおぼし召しなどない。
そこを理解して、世界に民主化が前進してきたとも言えようか。
お互いの間の中で、自らが望むなら、そこには話し合いが登場するのだ。
すべての事を一人で賄うことはできない。
誰も他者から被害を被りたくないし、まして‥侵略だ陰謀だなんてあり得ないことだ。
‥だからこそ、何事においても理由を求めて付けることになる。
‥自分がその一端に関わらんとも限らないからだ。
民主主義をただの自由解放の話し合いとしてでしか見ていないのなら、そこは図らずも疎かになる。
‥実に手に負えない代物だ。
手に負えないなら、参加なんかせずとも良い。生き様はごまんとあるだろう。
一神教の中にも、好んで神に従わなくても良い生き様がある。それが悪魔の存在感なのだ。
人や悪魔にチャンスを与えるも神次第、人や悪魔に慈悲を与えるも神次第だ。
‥そんな神にしても、根負けもするのだろう。呆れもするのだろう。
それを思し召しとして期待するわけでないにしても
‥人が懸命になって神に願い事はしても、懸命になって話し合おうなんて姿勢はない。
「人にとって、神と話し合う様とはなんだ?」
誰がどう考えたって、それは、皆に善きに計らうことである。
人が勝手にあれこれとおねだりする姿を以て民主主義などと言うは言語道断なのだ。
‥ならばこそ、老人の言葉は力強く有り続けることになる。
付け加えるなら、一人一人が神なのだ。老人も暗にそう語らんとしている。
「あなたに、他者を思いやる思し召しはあるだろうか?」と。
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