2012年03月16日

006 とある金細工師のその後と歴史の痕跡

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 それにしても、この金細工師がどこまでバレずに投資を続けていられたかは疑問である。一時は何事もなく預け入れていた側が引き返したからと言っても、要求された条件を反故にしていては痛い目を見るのは目に見えている。
 そして、仮にその要求に応えたとしても、応え続ければ続けるほどに、彼の投資手法に対する切望の眼差しは日に日に増したことになる。それが金貨を預け入れている側の心理であったはずだ。

 つまり、その後の金細工師がどうなったかは別として、そこにあった秘密が一部の者たちの共有の財産と化する流れは疑いようがない。
 そして、その金細工師がそこまで読み切ってだんまり投資をしていたかは謎である。もしそこまで読み切っていたとしたら、相当の器のワルだった事になるだろう。

> では、ここでは、その金細工師が編み出した手法を「奥義、担保偽造小切手の術」、それを知り得た者たちを「偽造の秘密結社」とでも呼んでおこう。
> 彼らが、如何なる思惑を有したかを考えてみるのだ。

 まず一番の事は、如何に担保偽造小切手から生み出される利益を勘ぐられずに、如何に多くの金貨を確保できて、如何にその運用を進めて行けるか‥だと思う。
 疑った側の自分たちがそうであったように、そこに説得力が確保される事こそが、秘密を隠し通すための担保とできるのだから‥偽造の秘密結社のメンバー達はそう理解したと思われる。

 そこで、今の銀行システムを参考に遡って、思いつく手段がいくつか挙がる。

@.預かった金貨に利子を付ける。
A.利子の得られる証券商品を売買する。
B.銀行間で金貨を融通し合うためにも、本店と支店、並びに、銀行同士で結託して送金サービスを始める。
C.さらにBのカムフラージュとして、銀行同士が高度に貸し借りをし合っているように見せかける。

 @は、当時、大航海から南洋の特産物を手にして戻って来るだけでも大変なリスクだった。一度や二度の外洋投資に成功したからと言って、そんな簡単に部外者にまで利益を回せるような状況にはない。よってこれはキャンセルされたと考えていい。

 Aは、投資で得られる利子には、返済が終わるとそれまでと言う限界が伴う。それゆえ、「持ち続けていれば、半永久的に利益がありますよ」的な商品としての魅力を打ち出すことは難しい。しかし、当時からそれを実現させるためのカラクリがザックリ二つあった。
 一つは祖税であり、もう一つは寄付である。
 ならば、貴族と教会にさらにたっぷり貸し付けてやればいい。それを細切れの債券にして売り出せば魅惑のキャッチフレーズ通りの商品ができあがるだろう。しかし、そんな今風の金融証券のようなアイデアを思いついたかどうかは不明である。
 そしてそれをやるからには、継続的に貴族と教会とがもっとお金を借りたくなるような、魅惑に溢れた新しい日用品が同時になければならない。
 従来の日用品に対する購買欲はすでに満たされていたと考えられる点から、まずは貴族や教会がもっと欲しくなりそうな魅惑ある商品作りの方から検討されるべきである。そう考えれば、これは思考の凍結下に置かれていたと見ていいだろう。

 Bは、預かり証明を手にしている誰かの引き出しが、どこで行われてどこに向かうのかを知りたければ、銀行自らが金貨の送金サービスを始めれば良い。ナイスアイデアだ。
 馬車や帆船を前提にした金貨の輸送網作りは大変な労力になるが、どちらにしてもそれは時代の変化を予期させたはずである。
 それゆえ、送金サービスから得られる手数料は、立派な新しいビジネスとして誰からも注目された事になる。よって、これは実行に移されたと言っていい。否、今の銀行サービスの根幹そのものだ。

 Cは、Bを始めた本来の理由を知らせずに、金貨輸送サービス網の参加に加わりたいと思うような新顔の金貸しや銀行家を振るい分けておくための意図を持つ。
 また、本店と支店の資金の流れを気取られないようにしておくためにも、知らなくてもいい立場の者を遠ざけておく上で重要視されたはずだ。

 ‥平たく言えば、送金する金貨の搬送を「短期の貸し借り」と呼び、それの理解の範囲において、提携関係にある銀行同士で資金を融通し合う‥とした協定が結ばれたと解釈して良い。



1-5)2
> いわゆる無担保コール取引の先駆けになる。

 ただし、この時代的にコール取引は問題外。現代のような有線・無線回線が前提ではないのだから、今日借りて明日返すというような超短期など成り立つわけがない。
 せいぜい‥馬車の往復に懸かる時間+現地での枚数勘定の確認作業+作業完了の伝達等を含めて、数週間は見ていいと思う。また、その繰り返しにかかる経費削減を狙えば、数ヶ月を前提に借りてしまう取り決めもあったと考えられる。
 中には、盗賊対策として、結社メンバー同士による内々での送金保険を設置して補償金の積み立てをしたり、情報網維持のための共同出資なんかもあったと考えられる。

 送金サービスの在り方についてふつうに考えれば、本店と支店を軸にしたサービス展開が前提になる。
 しかし、この場合のそもそもは、送金サービスではなく担保の偽造がバレないようにするためのカムフラージュなのだから、偽造の秘密結社のメンバーがそれぞれに別々の銀行を経営しながら、そしらぬ顔で、ビジネス有志が集って始めた画期的なサービスである点を強調させておく必要がある。
 そのようにあれれば、途中から参加してくる銀行家の抱くような「資本だけを吸収されて切り捨てられてしまうのではないのか‥」という欺瞞も晴れるというものだ。
 何はともあれ、秘密結社内で自由にできるお金、奥義に用いることの適う資金は多いに越したことはない。

 だから、その提携による繁盛ぶりを見せつけるといった段階からのスタートになったとと思われる。

 また、このような時代環境下での提携で注意すべきは、協定のみの理屈で融通し合えば、融通しすぎての融通倒れ‥誰かが一手に金貨を集めて運用したいだけ‥などの疑心暗鬼が渦巻く点である。
 今の時代であれば、どこからどこに資金が動いたかを後から即座に追跡可能にあるため、馬鹿な使い込み事件も直ぐに足が付くことになるが、輸送手段が馬車か帆船でしかないとなると、情報が上に上がってきた時点で破産を迎えてしまう危険性が大きいのだ。
 ゆえに、そこはキッチリとした定率での手数料と、短期での貸出という約束が交わされていたことになる。



1-5)3
> それでは、初期の初期においてどのような送金サービスがされていたのだろうか?

 そこはもう、電話も無線もまだ無い時代だったため、呼び出してあれこれ確認し合うなんてシステムではなかった。
 そこで考えられることを挙げれば、顧客向けの送金サービスの馬車や帆船とは別に、提携店から事ある度に早馬や伝書鳩が出され、お互いの情報をいち早く知らせ合いながら、資金にゆとりのある銀行は、資金の欲しい銀行に別口で貸付をしていただろう点である。
 そうすることによって、奥義、担保偽造小切手の術は、知る者と知らざる者とを隔てたまま、何事もなく、投資を進めていたものと思われる。

 一方で、その派生として考えられるのが郵便事業である。お客が送金を願い出たとしても、銀行がするのは金貨の搬送のみであり、預金証明等の記された支払い書類や、その支払い連絡云々の手紙をお客の取引先に届ける事ではない。
 その点、現在のように相手方の口座に振り込むという概念が理解されていれば、話は別だろうが、初期の初期のサービスにおいてそんな理解は有り得ない。よって、郵便事業とのコンビは欠かせなかったと見ていいだろう。
 つまり、銀行業による送金サービスの始まりは、郵便の歴史を切り開いた歴史でもあったのである。



1-5)4
> では次に、それで、時代に如何なる変化が現れたであろうか?

 送金によって貸し出した後のその間は、貸し出した分だけ必然的に融通または無理な貸付ができない。その見返りとして、定率での金利を手にするのが業務内容になった。
 それがお互いの信用を担保することになった。信用のない個人に貸し出すよりは、ずっと手堅い商売が成り立つ勘定は誰にでもできただろう。
 無論、コールして呼び出せるような状況にはなかったのだから、金利差に差別化を求めるような市場競争は、未だ思考の凍結下に置かれていた。それこそ、融通し合えば利益になるというだけの協定内容にあったと思われる。

 ここまでの内容であれば、例の奥義を無理に教えて理解させずとも、提携に参加すれば、金貨を融通できるという内容の方が際立って、金貸しにしてみれば実に有り難いことに思えたことだろう。
 そして、送金サービス網に参加できることは、同じ奥義を獲得していた外部の銀行家にしてみれば、同士の狼煙を見つけたも同然だったはずである。

 一方で当時の金貸しにしてみれば、融通し合う内容の提携は信じられない展開だったことだろう。なにはともあれ、そんなことをすれば、商売敵の敵方に貸付の機会を与えてやっているようなものだからだ。だからそれ以前では、ライバル意識・縄張り意識が絶えなかったはずだ。そう考えるのが普通だ。

 そしてその提携は、知らずとも奥義を使っているのと同じ効果となり得るものだった。

 なせなら、担保偽造小切手をまき散らさずとも、借りてきた分を知らず知らずのうちに地場に貸し付けていれば、確実に、地場の金貨流通を一時的にインフレ化させる効果を持つからだ。
 つまりそれは、自分の銀行で貸す機会が増えるのとイコールで預金者が増えることを意味し、それだけ銀行同士で行う取引機会が増える事を意味した。
 早い話、借りなきゃ損損、貸さなきゃ損損の思惑が渦巻いたはずである。
 そしてそれは、銀行の資金運用能力がそのまま、町経済・地域経済の担っていた経済枠を打ち壊し、銀行の都合による金貨のインフレとデフレを引き起こしていく因果となった。

 しかしながら、そこまでを想像して提携に参加した金貸しも銀行家も居なかったであろう。そもそもにしてその性質を、戦争が当たり前だった西洋の文化色で推察してみれば、馬の耳に念仏だったことになる。それが競争社会への狼煙だったのだ。

 ところが、不幸中の幸いだったかどうかの評価はさておき、その変化の原因となる奥義を繰り出す側にいた資産家や銀行家たちは、知ってか知らずか、今で言う主要都市にその基盤を陣取り、今に到ったと考えられる。
 担保偽造小切手の術は、繰り出せば繰り出した分だけ、地場地域での他人資本を同時に生み出すことにも繋がるのだから、そもそもにおけるスピード差を鑑みればわかることで、じわりじわりと、地方の金貨を都市部に集め出し、奥義を知らない提携銀行の町経済を結果的に圧迫することに繋がったと考えていい。

> つまり、秘密結社が繰り出した奥義こそが、都市と地方をクッキリと色分けすることになった過疎と過密の発生の因果だったのである。



1-5)5
 ただしその一方で、金貨自体の量も増えなければ‥どうしたって、地方の銀行や金貸しは、都市部の銀行に資金を融通しっぱなしに陥ることになる。それの流れは避けられないのだから、資本を戻すためにも、その後の提携条件として、金利の値上げを要求するのが経営判断だったことになる。

 そこで再び注目を集めるのがAである。
 だが、当時の欧州では戦争を仕掛けて踏みにじれば、それでチャラだった。だから、金利の要求を呑まざるを得ない頃合いにもなると、すでに戦争を始めるための準備は整えられていたと考えるべき展開だ。
 戦争で無くなってしまった金貨の行方などいくらでも屁理屈が付けられるだろう。たとえAを銀行間だけの商品にできる段階であったとしても、未だ思考は凍結した状態だったと思われる。

 それが、中世イタリアのあっけない衰退に裏付けられていると考えてもいいだろう。
 イタリアの没落は何も大航海時代の航路が変更されたというだけではない。そのタイミングでイタリアに戦争が仕掛けられている点で、その戦争の目的が、イタリアからの巧妙な金貨資本の引き上げと絡んでいた事を匂わせるに十分だ。

 仮にイタリアにまだ資本が残っていたならば、後々的に、盛り返してもいいと思うのがイタリアの芸術性だと信ずる。ただし、お金(パトロン)がないとどうしようもないのも当時の芸術家達の世知辛いお金の事情だったとも言えた。そう考えれば、的外れな推理ではないと思う。
 また、イタリアはローマ時代より道の整備が進んでいた分、道路整備のような新たな投資を必要とせず、海路にしても主要貿易航路変更の煽りを受けて、地中海域の船乗り達は仕事に飢えていたと見ていい。つまり送金に掛かる経費をさらに叩けたことになる。
 そして仕事に飢えていた芸術家達を、イタリアからスペインに送り込むのにも一役買ったであろう。

 イタリアの次に繁栄したのはスペインであるが、スペインは、大航海を通じてヨーロッパに金を運んで来るのと、イタリアから送金してくるのに都合の好い場所だったと判断できる。
 その後、投資がフランスとイギリスに向かったのは述べるまでもない。
 そして再び同じ展開が起きた‥スペイン艦隊は無敵と呼ばれていただけに手強かったが、結果的にイギリスに敗れて敗退し、スペインはその後イタリアと同じように、盛り返すことなくずるずると没落している。そういう段取りだったとことになる‥。

 それはつまり、イタリアもスペインも繁栄のために欠かせない血液だった金貨流通を完全に骨抜きにされて、抜け殻状態にされてしまったと見ていい。

> ここにおいて、Aの投資とは、戦争であった事が確定する。

 戦争をさせるための武器を新たに開発して貴族に売り、教会には医薬品の援助でもしていたのだろう。
 そして、怪我人や孤児を養うための貸付は、新たな開発投資の不要である点において、為すがままの取引が交わされていたと思われる。
 中でもイタリアとスペインとの間に共通した宗教的混乱は、資本の流れを安定に導くだけの地元勢力からの裏付け(寄付・賄賂)が得られていない点を物語っているとの判断が可能だ。地元の息の掛かった教会事情にあれば、混乱などあるわけがないのだから。

> つまり、宗教の乗っ取り、宗教への資本統制が企てられていたことを合わせて意味する。
posted by 木田舎滝ゆる里 at 04:18 | Comment(0) | 壁際の懲りない拝金 | 更新情報をチェックする
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