1-3)改稿.2015/09/17...20130124...
恋愛感情の中に見られるよくわからない感情の一つに
「あなたが私のモノにならないのなら、あなたを殺して永遠に私だけのモノにする」
‥というのがあるが、そいつを歴史上の独裁者にあてはめてみた。
1-3)1
> 織田信長の場合
俺は光秀を愛していた。
光秀の武士としての心意気というのが兎に角気に入っていた。
それはもう、茶湯を愛でるように光秀の政への切れっぷりに惚れたのだ。
しかし、あいつは皆と同じようには俺に媚びようとはせん。
俺の寵愛を求めようとはせんのだ。
蘭丸のように素直であれば良きものを、あいつは拒みよった。
‥それがどうにも我慢ならなかった。
だから俺はワザと皆の前でお前を虐めて、虐めて、俺の寵愛を求めるように仕向けたのだ。
それでもあいつは屈しなかった。それが返って良かった。
皆の者はそんな俺の姿に恐れ、さらに俺に取り入るようになった。
光秀に対する俺の熱情が、周りの者たちに俺への情念を呼び覚ました。
「正直‥気持ちよかった」
結果や形はどうあれ、皆が俺を慕うのだ。俺もその思いに応えなければならない。
張りが出た。
そうだ。そのためだったら俺は魔王にもなるだろう。
戦国の世に生を受けて生くるのだ。何の躊躇があるものか‥
「しかし光秀よ」
お前が俺の寵愛を受け入れないというのはどういことだ。
俺こそが覇者なのだぞ。お前が主になる必要はない。
光秀よ、お前の政は俺のそれを否定しているかのようだ。
俺はいっそうのことお前を殺してしまいそうになる。
「否、お前を殺して何になるというのだ」
「だが光秀よ、お前になら討たれても良いと思っていた」
「真に愛する者から殺されるのなら本望だと‥」
1-3)2
> 曹操孟徳の場合
俺は関羽が欲しかった。
俺の配下コレクションとしてどうしてもお前を押さえたかった。
‥誰しもがそう思うだろう。
そうさ、俺はただ‥その思いが一番だったのだ。
しかしお前は、玄徳を慕うばかりで俺のことなど眼中に無い。
関羽よお前が悪いのではない、玄徳の存在こそが悪なのだ。
玄徳をどうにかして亡き者にしてやらなくてはならない。
しかし、上手くやらないことには関羽を手に入れるまでには至らない‥さてどうしたものか。
> 策士と言えど、これは難問だった
仮に、関羽を手に入れたとしても、
その後に活躍の場が残されていなければならない。無いと困るのだ。
そうだ。我がコレクションとして相応しくあるには、この俺に忠誠を示してこそだ。
その恩を手柄で返してこそ、皆の理解にも繋がろう。それが関羽というものだ。
しかしどうだ‥この俺の関羽一人への慕情が、玄徳を生きながらえさせてしまってもおるのだ。
(‥覇者としてこれほどのジレンマがあるだろうか)
あの何も持たざるに等しき君主と、この俺が、
関羽の有る無しというそれだけのことで、対等の場へと貶められてしまったのだ。
‥それで目の黒いうちに中華統一を見ずに果てる‥というのでは、生ヌルいではないか。
> 孟徳よ‥お前は一体どうする気でいるのだ?
> どちらも手に入れられずに果てるのか?‥それとも、どちらか一方を選ぶのか?
結局‥俺は、どちらも手に入れ損なった。
そればかりではない、挙げ句の果ての夢の中に出てきた関羽にうなされてしまう始末だった。
「なぜ、一番に欲する者から嫌われねばならない?」
「俺はお前を俺の駒として活躍させたかっただけなんだ。それの何が気にいらんのだ‥」
少なくとも俺は、董卓の暴政から民を解放し、
荒廃していた中華を、その半分を手に入れて豊かに立て直した君主としての自負がある。
「誰もこの俺の功績についてまで、奸雄呼ばわりなどしないのだッ」
「関羽よ、お前がこの俺を嫌う理由は一体何だ?」
> ‥仮に
この俺が中華全土の帝の位に立った時、関羽よ、お前は一体どうする気だったのだ
帝の言う事を聞かない武将など何の価値もあるまい。むしろ逆賊ではないか‥
俺はお前が欲しかった。
だから、なまじ手を掛けずに済まそうと、
大軍で包囲して戦意喪失に持ち込もうと狙ったのに‥
それでさえ、お前はこの俺の心配りを拒んだのだ。
何もお前達に天が味方していたわけではない。
すべてはこの俺の関羽惚れの甘さからでた采配だった。
その気だったなら、はじめから呉と連携して荊州を二分してしまうことも有り得た。
「なぜそこが分からないのか?」
お前は俺を悪者扱いにしているが、その心意気を無視したそのお前は、
その時分に選択すべきだっただけの数の荊州の民を巻き込んで見殺しにしたんだぞ。
お前のその義兄弟へのこだわりと、この俺のお前欲しさへのこだわりのどこに差があるというのか?
‥どっちにしても民を犠牲にしてしまうのだ。
「関羽よ、お前が俺に付いて来てくれたなら、俺の目の黒いうちに中華は治まったに違いない」
「関羽よ、お前が夢見ていたものとは一体何だったのか‥」
1-3)3
歴史の陰に女ありと言うが、独裁者の陰にどうしようもない男惚れあり。ちゃんちゃん。