↓3)改稿.2016/04/29...20160313...
今日は進級始業式、そして転入初日‥凸激が旭丘分校に通う初日だった。
見事な快晴の朝、
早ばやとまだ誰も来ていない旭丘分校の校門に、
夕向凸激(ゆうむかいとつげき)が姿を現した。
凸激は、例の如く‥小五のくせにマイ中学教材を運ぶべくして、自転車で登校してきたのだ。
さすがにランドセルには収まらず、荷を運ぶのにちゃっかりと自転車登校を試みたのである。
以前の分校担任のアドバイスで、持ち運ぶのも大変だろうからと
同じ中学参考書と問題集を二つ揃えて、一つは学校、一つは自宅に据え置くという作戦だ。
そんな手があったのか‥と感心した凸激は、
「じゃ、小学校の教科書も持ち運ぶ必要ないじゃん」と決めていた。
なにしろ、凸激はすでに‥個人的には小学校課程を終えていた。
その恩師との挑戦は、もはや凸激自身の目標になっていた。
分校という環境を生かして、ちゃっかり小学校の内に中学課程を修了させようというのである。
ちなみに、引っ越して新たに通うことになった‥ここ旭丘分校では中学校も一緒だった。
それゆえ‥凸激の学習意欲には、半分やけくそさが入り交じっていた。
恩師との挑戦を果たしたとしても、そこには同級生も部活動に励める仲間も得られず、
ただ黙々と勉強せざるを得ずの道のりに、退屈さを募らせつついたからだ。
|校門に 男一匹影ぞ立つ 旭たくまし丘すがすがし
「ちっ、少し早く来すぎたか‥
暇だし‥もう少し詠んでみるか」
1-3)1
|さえずりや小高き丘の校舎まで届くぞ満ちるぞ吾が登校
|これほどのサクラが祝うお出迎え 俺の初日ぞ勝負晴れ
|いざ来いと仁王で立ちたる校門の待てども待てども如何ばかり
凸激が一人ぶつぶつとやっているうちに時も経ち、校門の坂道の下には人影が見えていた。
それは、旭丘分校に通う女子二人、宮内れんげ(小4)&一条蛍(中2)の二人だった。
‥この春、旭丘分校に通う生徒数は、これで全部である。
「ほたるん、あの校門に立ってるの誰ですのん?」
「‥れんちゃん、あれはきっと噂の転入生ですよ」
「無を放て
呼ぶのは誰ぞ
吾が内なり
俺の名は夕向凸激だ!!!」
「俺の名は夕向凸激だ!!!」
「俺の名は夕向凸激だ!!!」
「・・夕向凸激だ!!!」
「・・・凸激だ!!!」
どこに向かって叫んだというのだろうか‥
校門に立つ少年の影から、自分の名を名乗るビックリするぐらいのドデカい一声が放たれた。
少年のその名を‥やまびこがさらに繰り返し、その余韻がれんげと蛍の耳を振るわせた。
「なんなー☆あれ?、映画のワンシーンみたいなーん
かっこいいのんなー、ウチもやってみたいーん☆」
「(ははは)‥とてもキャラ立ってそうですね」
1-3)2
その時、凸激はまだ二人の登場に気がついていなかった。
自分の叫びにスッキリしたのか、目を閉じてその余韻に浸っていた。
そして、目を開けたか開けないかと同時に‥飛び込んできたものがあった。
「にゃんぱすー」
「おはようございます」
当然のその挨拶にびっくらしたものの、凸激はいたって冷静だった。
「ちょっとまて、お前今なんて言った?」
「にゃんぱすー」
「・・・・」
「それは、何語なんだ?いつからだ?」
「そんなん覚えてないん、気がついたらウチだけが使ってたん」
「それじゃ、お前専用のお前だけのマイ挨拶言葉かよッ、極(ごく)かっこえぇ!!
‥でも、まだまだあまいな‥お前はまだその言葉のときめきをフルに活用してはいまい」
「・・・・」
腕を組みながら、上から見下ろすようにして凸激がそういうと
凸激は再びビックリするぐらいの大きな声で、校門から山野に向かって
れんげのそれで叫んでみせた。
「にゃんぱすー」
「にゃんぱすー」
「にゃんぱすー」
「にゃんぱすー」
こだまするにゃんぱすーが、れんげの心を揺さぶった。
「どうだ、こんな風にはまだ使ったことなんかないだろう」
「☆★☆★・・ウチもやるーん!」
「にゃんぱすー」
「にゃんぱすー」
「にゃんぱすー」
「にゃんぱすー」
「すごいーん、すがすがしいのーん」
「そうだろう、そうだろう。じゃ次お前だッ」
「え、私‥わたし蛍です。わたしもやるんですか?」
「普通で良いんだよ、挨拶なんて気持ちなんだからさ」
「は、はい‥」
「おはよう ございまーす」
「おはよう ございまーす」
「おはよう ございまーす」
「おはよう ございまーす」
「こんなのここ来てはじめてですけど、こだまに返される挨拶っていうのもいいですね。」
「そうだろう、そうだろう、
それにしてもお前ら、そろって見れば見るほど大当たりだな
俺、なんかワクワクして来ちまったぜ
でもいいかッ、俺の勉強の計画だけは邪魔済んじゃねぇぞ」
「・・・・」
そう言い捨てると、凸激は自分の自転車を動かすべく二人に背中を向けた。
「ほたるん、大当たりってなんな?‥」
「さぁ?‥変わってらっしゃるのはたしかですから」
1-3)3
凸激が自転車を押し出すと、三人は揃って校舎に向かって歩き出した。
「・・・どうしてそんなに荷物もってくるん!?、しかも自転車なん」
「だから今言ったろう、俺の勉強の計画だけは邪魔すんなって」
「その中身全部が勉強の道具なんですか?」
「そうだけど‥
これだけあると重いから、こっちは学校に置いとく方だけどな
それより、まだ他に誰も来ねぇんだけど、誰が校舎開けんだよ?この学校」
「鍵なんか掛かってないから、いつでも入れるん」
鍵が掛かってない‥凸激はそれに驚き、並んで歩いていた足を止めた。
「お、おおい、ちょっと待て、鍵してないってどういうことだよ」
「平和なんですよ、ここは」‥蛍が半身を返して、返事をした。
「平和と鍵は関係ないだろう・・・
(まぁいいか‥朝勉するのに支障はないし‥とりあえず俺的には問題なし‥と思う)」
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