↓5)改稿.2016/05/02...20160321...
のんびりとした春の田舎路を、凸激はひとり散策していた。
越してきたからには、これから地元の情報収集は欠かせない。それにしても見事な片田舎だった。
親の仕事の都合からとはいえ‥如何ともしがたい物足りなさに唖然とせざるを得なかった。
‥それでも嫌いではない。むしろ、凸激には好物だった。
|てふてふのまっすぐ飛んでく路の上 見せたいんだよなその姿
目の前をモンシロチョウが飛んでいるのを、凸激はすこしばかり立ち止まって眺めていた。
すると、また別のモンシロチョウが飛んできて、
まるで付いてこいと言わんばかりに、路に沿って飛んでいくではないか‥
‥凸激は、暇つぶしにもそのあとを追ってみることにした。
しばらく行くと
喜ぶべきか怪しむべきか、違和感たっぷりにも駄菓子屋らしき店先が見えだした。
‥近づくほどに、それは駄菓子屋だった。
「???‥どうしてここに、駄菓子屋なんだ
て、いうか、まだ駄菓子屋のここしか店見てねー
へんだろう‥普通に考えたって
今度通う分校の生徒だって、俺を含めて三人だって話なんだぞ
なぜ‥駄菓子屋だけが、こんな片田舎でやっていけるんだ???」
‥それはまるで
童話に出てくるお菓子の家を発見した心持だった。ならば‥なおさらに、入らざるを得まい。
凸激は、こんなへんぴなところで駄菓子屋を営んでいるという
その根性の据わった御仁の顔でも、まずは拝んでやろうと、意を決して突撃することにしたのだった。
‥その時、凸激には
どんな魔法使いが出てくるとも限らない・・その油断大敵の緊張がたまらなかった。
1-5)1
「たのもうー!、われこそは夕向凸激なりー!」
「・・いらっしゃーい」
その魔法使いもとい根性の持ち主とやらは、
まだ十分に若々しいお姉さんに見えたが、同時に
なにかで見た女番長みたいな空気を漂わせているようにも見えた。
「ほほう、あれが‥ここらで駄菓子屋で踏ん張っていく感じの面構えなんだぁ‥」
‥と、凸激は思った。
そう思うが早いが、何やらいたずらな感情がふつふつと涌きだしてきた。
(こりゃ、言いたいこと言っとくのもありかもな‥)
さてさて、凸激には、駄菓子文化に申し述べたき次第があるようだった。
凸激は、散策してちょうど小腹が空いていたので買う気はあった。
そうなのだ、
ドカンと言いたいことを申し述べてやろうと言うのに、手ぶらというわけにも行くまい‥
まずは、棚にある商品をトコトンじっくり見て回るのが、そもそもの駄菓子屋での醍醐味‥
凸激にしても、そこは子供だった。
しかし、玩具類はともかく、思った通りの品揃えに少々気が滅入ってくる‥
‥凸激としては、安心且つガッツリ食える物の方がご所望だった。
そんな中でも、一番に、意外に思ったのは、かき氷だった。
「まだ春だというのに、あれは一年中やってるのだろうか‥
メニューをこまめに剥がさないというだけでも、手抜き感ありありだぞ‥
テレビで見たことあるけど、日本一と言われるかき氷屋でさえ夏限定らしいのに‥」
‥とりあえず、今日のところはパスだな」
1-5)2
どうにもなんとか、
自分の中のセーフライン(マイ定番の黒糖ふ菓子)を見つけ出すと、凸激は、
まずはそれを一つだけ手にしてレジに向かった。
「おい、お前、さっきの『ゆうむかいとつげき』というのはやっぱり名前なのか?」
「そうだけど・・名前じゃなかったら『われこそは』なんて述べないぞ」
「珍しい名前だと思ったからな、確認したまでだ
それじゃお前か、最近こっちに越してきた、この春から小五の男子ってのは?」
「あれ?、女番長さん、どうしてそのことを知ってるのさ」
「(ムッ)だれが、女番長だッ」
「じゃ、名前は?」
「加賀山楓(かがやまかえで)だ。ちゃんと名前で呼べよ」
「お姉さんの名前じゃなくて、店の名前?」
「‥‥『かがや』だ」
その凸激との面倒くさいやり取りを不思議に思って、楓は、少し考えた。
(あれ、ウチって看板出てなかったけ?)
‥原作見てもアニメ見ても、それらしき物は見あたりませーん。
「かがやさんってさ、
ここらに店がここしか無いから、いつもそんな感じなのか?」
「いいや、私はずっとこういう性格だ。ここに生まれて、ここで育った」
(じゃ、旭丘分校の卒業生なんだ、ふーん・・)
1-5)3
凸激は、そう思うと、これは長い付き合いになるものと確信した。
そこで、手にしていたふ菓子をレジの台に置き、黙ったまま踵を返して、
同じ駄菓子をもう一つ取りに行った。
‥楓には、それが機嫌を悪くして店を出て行くように思えた。
「おい、買うんじゃないのか?」
凸激が、同じふ菓子をまた一つ手にして来ると
先ほどと同じようにレジ台に置き並べて、こう言った。
「さっきのは、あいさつ分、これは腹ぺこ分」
なんだか虚を突かれた楓だったが、凸激のその言いっぷりに悪い気はしなかった。
「まとめて持って来い、まとめて」
楓のそのダルそうな接客態度に、何やら言いたくなってきた凸激は
‥閃いたように一気に歌を詠み干した。
|「知ってるか?」チクロ・ズルチン・サッカリン戦後甘味料の発がん性
「おい、なんだそれ‥」
|いつの間のステビア流行るその実は避妊効果ぞ草食チンチン
「・・・・」
|駄菓子屋は少子化時代の路地迷宮 怪しい甘味料ぞモンスター
|子供にはまともなモノを与えろの ど真ん中から死んでる駄菓子
「お前、喧嘩売ってんのか!!!」
「あ、俺、お客様だから」
「・・・(チッ)」
1-5)4
凸激も、楓の口調からさすがに腹を立てるだろうと言うことは、予想していた。
楓にしても、せっかく地元入りしたお子様のご登場を‥不機嫌の色で染めたくはない。
‥何はともあれ、商売が優先だった。
そんな楓の‥機嫌と立場との葛藤に苦悶してる表情を見て取ると、凸激は
再び、同じ駄菓子を取りに行って戻ってきて、レジ台に三つ目を並べるとこう言った。
「これは、お詫び分」
楓は、再び目の前に置かれた駄菓子の片寄りを見て思った。
「おい、どうして、同じのばっかり持ってくるんだ?
普通なら、いろどりみどりに心躍るところだろうが‥」
「なんだよ、お姉さん、またさっきの吟唱してもらいたいのか?」
「いいや結構だ‥‥
(楓は先ほどの凸激のあれが、お客の要望だということにようやく気がついた)
‥じゃなんだ、お前からしてみると
私の店で口にできるのは、ふ菓子しか有りませんって言いたいのか?」
その言葉を聞くや否や、
凸激はまた同じことをして、同じふ菓子をレジ台に四つ目を積み重ねた。
なかなかに説得力のある言い方だった。
楓にも、凸激がどうにも普通の奴とは明らかに違って見えはじめた。
‥その無言の要望に、楓も態度を変えてみることにした。
この調子でいくと‥
目の前の凸激には、かがやは駄菓子屋でなく「ふ菓子屋」になりかねないのである。
‥いくらなんでも、それでは張り合いがないというものだ。
1-5)5
「お前、何か言いたそうだな。まずは、話だけなら聞いてやってもいいぞ」
「ならさぁ‥あれ、(凸激はかき氷のメニュー札を指さすと言葉を続けた)
かき氷やってるぐらいなのにさ、どうしてポップコーンやらないの?
できれば種は、非遺伝子改良で純国産が良いんだけど」
「なぁ‥」
楓は言葉が詰まってしまった。絶句だった。
楓にとってそれはとても衝撃的な響きだった。なにしろ、生まれてからこの方
かがやの娘として
そんなハイカラなメニューも有りだったか‥と人生を損した気分に落ちたからだった。
‥そのまま固まってしまっている楓の様子に
凸激は、また行ってきて、五つ目のふ菓子をレジ台に置いた。
「いつも思ってんだけどさ、最近の駄菓子って、水飴ってやってないの?」
「水飴か・・・何か聞いたことあるな、かなり昔の話だったぞ
‥確か‥、そもそも水飴は扱いづらいからな
それに今時、薄皮の煎餅に水飴を塗っても流行らないだろう」
「そういう着色の付いてそうな水飴じゃなくてさ
200g容量程度の平べったいプラ容器に収まってるような無色のまんまの純国産が好いんだけど」
「値段もするし、それでどうやって駄菓子になるんだ?」
「別に良いじゃん、マイ・ボトルキープでさ」
「・・・・」
「ボトルキープしてもらっといて、来る度にここでなめて帰る感じかな
そこに、スプーン型の煎餅が10円とかさぁ」
「いつ食べ切るかもわからないのに、こちらで預かれてか?」
「そんなの半月でも一ヶ月でもしたら、強制的に持ち帰らせれば良いんだよ」
アイデアは斬新だった。
「・・・お前、本当に小学生か?」
|腹減れば野蒜だって探し出す 売ってるばかりが駄菓子に非ず
‥そう詠むと凸激は、会計を済ませて、かがやを後にした。
その凸激の後ろ姿に、楓はとてつもない予感を感じたのだった。
なにしろ
凸激のその歌以外に一切を付け足さずの無言には、
「俺を客としてつなぎ止めておきたいのなら、今度から俺の口に合うものを店に置いておけ」と、
そう言わんばかりに、去って行った一陣の風に思えたのだから‥そしてそれは
‥かがやの足元を見て言っているようにも思えてくる。なんとも子供らしくない。
しかも‥たいして買い込んだわけでもないのに、その羽振り良さげに思わせる買い方は
大人としても魅せられるところがあった。
「あんなのが、今度から分校に通うのか、先輩もせわしくなりそうだな‥」
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