2016年03月30日

【二次創作】のんのんびより 13 二宮金次郎像のポーズの巻

↓3)改稿.2016/11/27...20160518.20160329...

 ‥凸激は、先日の登校時に
 自転車を漕ぎながら、あちこちに桜咲く通学路の景色を見はしたが
 多少荷物も有ったし、えっちらほっちらと登り道を行くのに呑気に眺めるなんてどころではなかった。

 帰りのバスにしても、まぁ悪くなかったが‥朝の方が、より景色の具合が良いはずと思っていた。

 ‥そう思えば、まだまだ一学期二日目
 凸激の目には、
 バスで行く旭丘分校への通学路が、新鮮でわくわくの花見コースに見えていた。


|のどやかなカーブ溢るる山やまの広がり見れる是ぞ田舎バス

|山桜遠くに淡く山に染むかぐわしまじくも心つたわる

|ようようと春を曲がって春の来る道なり続くバス登校

|一台や願ったりの貸し切りの道も貸し切り花見ぞ通学


 目的のバス停に到着すると、凸激は運転手さんになにやら尋ねた。


 「ねぇ運転手さん、春だけでも良いからさ、バスの天井、ガラス張りにしてよ」

 「・・・ははは、それはいいね
  でも、予算的にもかなりきびしいんじゃないかな」

 「じゃあさぁ、バスの外に何台かカメラ付けてさ
  遠くの景色や山桜がアップで、自分の席のところの目の前の画面に映し出されるってのは?」

 「いいね!‥それなら普段の観光バスでも、オプション改造だけでイケそうだよ
  なぁぼく、それ、おじさんのアイデアってことにしてもいいかい?」
 「別にかまわいけど‥俺、山向こうに見えてる山桜がもっと見えたらなぁって思っただけだし」
 「そうかい、それじゃ遠慮なく会社に提案しておくよ」


 凸激がバスを降りて振り返ると、
 蛍が酔ったらしく、後ろに続くれんげに心配そうにされておりてきた。
 言うまでもない‥
 電子辞書を下に見ていてバスに酔ったのだった。それにしてもれんげの方は至って平気にしている。


 「ほたるん、大丈夫なん?」
 「‥‥気持ちわるぃ‥で‥す」

 「ほたる姉は酔って、れんげはなんともないのか?」
 「ウチはなんともないん?」

 「(鉄人だなこいつ‥)
  じゃ、そこのベンチですこし座ってくか?
  なにも先生が先に校舎にいるってわけでもないからな」


 凸激がそう言うと、蛍もそれもそうだと思った。
 ‥べつに無理してまで、登校の時間を気にする必要もない。
 生徒の自主性を主体にして成り立っているのが、旭丘分校の実情だった。

 蛍は‥気分が落ち着くまで、とりあえずバス停の長イスで休むことにした。



1-3)1

 れんげはまだ凸激に電子辞書を返さずに操作に夢中だった。
 凸激もそのれんげの様子を見て楽しんでいた。


 「‥私、だいぶ落ち着きました。そろそろ行きましょうか?」
 「じゃ、行くか」
 「はいのん」


 凸激が、れんげに電子辞書を返してもらおうと思った先から
 れんげが、歩きスマホさながらに歩き出していた。


 「おい、れんげ、ちょっと待て
  まさか、そのまま金次郎歩きで行くつもりなのか?」

 「・・・とっつん、なんな、その金次郎歩きって?
  この電子辞書にも出て来ないん」
 「出てくるわけないだろう、世間じゃ歩きスマホって言うからな」
 「(なぁ☆)・・・・」

 れんげには、それがダジャレにもならないへんてこなボケに思えた。
 ‥どうして、そう言われたのかを考えようともせず、電子辞書に夢中のまま、また行こうとしている。

 「だから、つまずいたりしたらそれ壊すだろう
  もう、返せって言ってるんだよ」


 ‥れんげは振り向きながらこう切り返した。


 「金次郎って、二宮金次郎なん?」
 「そうだよ、どこの小学校にも校門付近で本を読みながら薪を背負ってる‥あの銅像だよ」

 「では、問題ですのーん
  少年二宮金次郎んが、その金次郎歩きでコケたん回数はずばりどのぐらいなん?」

 れんげは、どうにか凸激を言いくるめて
 このまま学校に着くまで電子辞書を楽しもうと思った。しかし、凸激の反撃は意表を突いていた。


 「‥お前まさか、あの銅像の姿をそのままに信じてるのか?」



1-3)2

 「え☆、違うんですか?」
 ‥蛍が横から驚きの声を上げた。れんげも興味深そうに、凸激の次の言葉を待ち構えている様だった。


 「いいか、考えても見ろよ
  コンビニも無い、自販機も無いそういう時代だ
  村によっては、店だって無いだろうな

  そんな時代にだな、いつもいつも下向いて歩くように本ばっかり読んでても
  腹減ってから食いもん探そうなんて奴は、それこそただのクソバカだ

  どこに何があって、いつ頃になれば食べ頃かとかな‥分かる様になるには
  それこそ、普段から周りをよく見て歩いてなきゃ、分かりっこないだろう
  勉強するにしたって、腹が減ってたら頭に入らないんだからな」


 「そう言われてみれば、そうですね」


 「それからな、ガスも電気も無いだけでなく、マッチもライターも無い時代だったんだぞ

  薪にそのまま火を付けるわけじゃ無いんだからな、
  小枝とか火種になりそうな草や松葉がないか‥薪拾いついでに
  道端だろうと落ちてないかと探すってもんだ、その時に探さないでいつ探すって言うんだよ

  毎日の天気予報があったわけでも無いんだぞ、道が舗装されてるわけでも無いし
  雨上がりの泥だらけの時に探したってしょうがないだろうに

  だから、本なんか読みながら歩くのは、ただのお馬鹿さんの絵図そのものだ‥
  まさに、れんげ、今のお前のそれだッ!(ビッシっと指す)」

 「‥なぁ☆!」


 れんげは打ち負かされつつあった。
 れんげも負けず嫌いだった。そして一つ思い浮かんだ。それを闇雲に撃ち放った。


 「‥とっつんのその説明だと、いつも拾い食いしてるみたいなのんなー
  だから、誰も気にもしないようなことがわかったのんなー」

 「あったりめぇだろう
  俺は歌の拾い食いが大好きだからな、いつもどこかに詠みネタがないかと探しているさ」


|下向いてふるさと見ずに歩くなど 周りわからず ツまずくのが落ち


 ‥れんげの敗北だった。
 れんげの歩きスマホだった子を、凸激が見事打ち負かした様子に、
 蛍は思わず拍手して、さらに「ゆうちゃんお上手♪」と口にしてほめていた。

 なにしろ目の前で起きていたそれは、社会問題としても、
 自分だったらどうやり取りすべきだろうか‥という関心事の一つだったからでもある。
 しかもその相手は、れんげだったのだから申し分ない。

 ‥そこはともかく、れんげとしては、言い負けた感におさまりがついていなかった。

 要は

 言い負かされたからただ返すのではなく、
 今、自分が手にしてしまっている凸激の電子辞書を
 如何にして、さり気なく手渡すか‥だった。
 ‥誰にとっても、そのまま無言では、それこそ敗北を受け入れたことを意味してしまうのだ。


(無論‥性格にもよる。至って個人の自尊の都合でしかないが、人とは実に面倒くさいものである)



1-3)3

 「‥いつも思ってたけど、

  校門の前の二宮金次郎像ってさ、日本の勘違いなんだからさ
  ほんとなんとかしてもらいたいよな、俺から見れば、習作としか思えないし
  どうせなら、戦国武将の像みたいにさ、もっとリーダー感だして欲しいよなぁ

  ‥アレ見てるとほんと、あーまでしてガリ勉になんかに、ならねぇぞって思うだけだからな」

 「そうですよね
  私も、アレを見れば、誰もが一度はそう思ってるものだと思ってました‥
  逆効果になってるだけだと思います」


 凸激が蛍に拍手されてまでほめられて、調子に乗ってか、いつもより多めに口を叩いていた。
 ‥その凸激の言葉の端になにを感じたのか、れんげは何やら閃いた。


 自分のそのひらめきに誘われて
 れんげが、なにやら、うねうねと身体を動かしはじめた。

 ‥それは、どうにもポーズを探っている様子だった。
 脇から見ているとおかしすぎる。しばらくすると止まった。どうやら、ポーズが決まったようだ。
 そして、れんげは命名した。


 「どうですん、このポーズ!?
  これが新しい二宮金次郎の像の形なのん
  題して、『望郷の腹ぺこ』なん」


 ‥それは
 薪を背負いながらに腕を組み
 組んで下にした右手に勉学の書を、読みかけなのか指を挟んだようにして垂らし持たせ
 右足を一歩前に踏み込み出しつつも
 故郷を思いやり後ろを気にしてか、やや半身で振り返り、
 それでいて目線は、高みを目指さんとして上を向く‥

 まさに窓辺のリーダーたらんと見せるに、お手本像として、ふさわしげなポーズだった。
 ‥どうやら、ランドセルを薪の背負子に、電子辞書を勉学の書に見立てているらしい。


 「うわぁ、れんちゃんそれ、とっても感じが出てていいですよ
  本読んでるだけの像より、ずっと何かしてくれそうな頼り甲斐が伝わってきます」


 凸激は思った‥

 なんだかんだと、電子辞書を書としてモチーフの中に組み込んで扱っている。
 なかなか‥好い感じだな。でも、あんな持ち方して‥落とすなよ。

 そして、ネーミングセンスがぶっ飛んでいると‥

 自分なら、自分がさっき言いくるめたことのそれをそのままにタイトルになどしないだろう。
 否、素通りのままだったに違いない。
 しかも、ほたる姉は、そこを平然とスルーして全体だけをほめている。

 思うにそれは、奴の日常と言うことらしい。

 ‥夕べのあれといい、目の前のこれといい


|恐るべきライバル登場その予感どこまでやるか興味の尽きぬ


 否、それはれんげからしても、同じだった。
 凸激は、まだ、そこの鏡似性について知る由もなかった。

 自分から背すじを正して探求すればするほどに、相手もまた斯様を発揮して見えるのだということを。
 ‥その逆もまた然りなり。


|如何にしてたよりに生きるかそれだけの生き様の鏡ぞこのうつつ

posted by 木田舎滝ゆる里 at 23:50 | Comment(0) | ネタ文学 | 更新情報をチェックする
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