↓3)改稿.2016/11/27...20160509.20160405...
土日を挟んだ数日後の朝、バス停に蛍が現れると
ジャーン!!とばかりに、その片手にはピンクの新品の電子辞書がかかげられた。
‥凸激に感化されて、蛍も電子辞書を買ってもらったのだ。
「買ってもらったんですよ、ゆうちゃんと同じタイプです」
「うわぁ、ピンクいいなん、見せて見せてん」
凸激が、中身は同じだろう‥とそう思うも
横目に‥様子を見ていると
なにやら‥そこには独特の女子空間が形成されていた。
|キャッキャッと振る舞う女子らの異空間、何やら‥俺って蚊帳の外?
「ほら、とっつん、さっさとそっちに寄るん
今日は、ほたるんのピンクので勉強するのんな」
「はーい、れんちゃんどうぞ」
「え、いいのん?、ウチはほたるんの勉強を横で見ているん」
「いいんですよ、私はもういつでも使えるようになりましたから
今はれんちゃんが使ってくださいね」
「‥では、有り難く貸してもらいますん」
(‥なんだそりゃ‥俺の時とは大違いだぜ)‥そう思う間もなく
バス停のベンチの片端に、凸激は、ぽっかりポツンとなった。
それは、つい昨日先日辺りまでの、両手に花の状態とは打って変わった有り様だった。
|うちやられ‥端に座るらしこれからを思うにすこし名残惜しけれ
‥とは言っても、凸激としては、これこそが本来の想定形にあった。
朝勉のしづらい状況から解放されたと思えば、それだけのことなのだ。
それにしても、凸激は、
事の状況の変化に不慣れにあるせいか、それはそれで後に惹かれるモヤモヤが募った。
凸激は、そこの気持ちの不可解を確かめようと
バスが来ると、真っ先に乗り込んだ。そして、一番後ろの席の真ん中に陣取った。
予想通りというか‥
やっぱり蛍とれんげは、こちらにお構いなしの様子で中途の席に隣合いに散った。
|俺ひとりやっぱり男だ この距離感 まるで過ぎし春のあとかと
|移ろいをさりとて思う散りし花このまま吹けと清き風たらむ
1-3)1
それから、またしばらくして
今度は、れんげがマイ電子辞書をゲットしたと極ご機嫌に
朝のバス停に現れた。れんげの電子辞書はパープルの輝きを放っていた。
いつもバス停には凸激が先に来ていて、
れんげとしてはここぞと思ってよろこび全開に現れたのだった。
‥だが、凸激にしてみれば、そんなこたぁどうでも良いとした顔向きだった。
「どうですん、このパープルの華やかさ」
「おっ、れんげも買ってもらったのか・・って、お前も中学生用の奴かよ」
「はいん!同じのを買ってもらいましたのん」
「それじゃ、尚更に勉強しないとな‥持ってるだけじゃ宝の持ち腐れだぞ」
‥凸激は、そう言うと、顔をすぐにまた電子辞書に向けたのだ。
「ねぇ‥とっつん
もう少し一緒に喜んでもいいと思うのんなー」
「・・・しょうがねぇなー
じゃ、付き合ってやるから、はじめからやってみろよ」
「どうですん、このパープルの華やかさ」
「すんげー、良かったな、お前も買ってもらったのかよ!」
「はいのん!これでウチも電子辞書を使って調べまくれますのん」
「そうだよな、この辺りは自然に満ちてるから調べたいこと一杯だもんな」
「(な☆!)・・・・」
「どうした、れんげ?」
「電子辞書でも、名前が分からないと調べられないんなーと思ったのん」
「それはそうだろう‥だからさ、
デジカメでカシャッと画像を採取して、そこに映っている物体をAIが認識して
それに関する内容を提示してくれるってぐらいの機能性が欲しいよな」
「・・・とっつん
それを聞いたら、せっかく買ってもらったのに、なんか損した気分になったん
どうしてくれるのん?」
「あのさー、れんげ
まだ形にもなっていない魔法のような話を聞いて、今が損したとかぬかすのもどうかと思うぞ
まぁ確かに買ってもらったばっかだから、わかんなくもないけど
カタログとか見なかったのかよ、あれもこれも言いだしたら切りないぞ」
‥どうにも、れんげには
自分が表現したかったよろこびの感じとは随分と違ってしまっていることに
なんだか物足りなさを感じたものの、凸激にしても水を差してるわけでもなし
こんなものかとその場に見切りを付けた。
「もういいん、そっち寄って」
「寄れって、右も左もはじが空いてるだろう」
「いいのん、ウチがまんなかに座るん」
|うれしさに水を差すのもなんだから 望みのままにどかされてやろう‥
1-3)2
そこに蛍が現れた。ここのところ、いつも変わらぬ朝の顔合わせの順番だった。
待ってましたとばかりに、れんげが立ち上がると
来たばかりの蛍に、ジャジャーン!とパープルのそれをかかげて見せた。
「うわぁ、れんちゃんも買ってもらったんですね
よかったですね、これでみんなおそろいですー」
「ウチのはパープルなのん
とっつんのはレッドで、ほたるんのはピンクだから、どうにか戦隊レンジャー気分なーん」
凸激は、れんげのその言葉を聞いて驚いた。
(この女子はそういうノリで色を決めたのか‥じゃ、お勉強戦隊かよ)
‥そう思った矢先に、れんげがとても恥ずかしいことを言い始めた。
「ほら、とっつんも立ってポーズ取るん」
「‥なぁ☆、まさかお前、
戦隊レンジャーのポーズの真似をその色の気分だけでやろうってのか?」
「とっつんは、呑み込みが早くて助かるのんな
じゃ、とっつんはレッドなのん
早く電子辞書を持ったまま真ん中に立つん」
有無を言わさず、いつの間にか、三人そろって‥
やっぱり‥あの小っ恥ずかしいポーズを取ることになった。
‥とはいえ、バスが来るにはまだそれなりに間があった。誰に見られることもない。
見れば、ほたる姉もかなり照れくさそうな顔をしていた。
‥どうやら、楽しくやりましょうの心得のようだった。こうなるともはや反論の余地はなかった。
「・・・それで、れんげ、なんて名で叫ぶんだ?」
「ずばり名付けて、
のんのん戦隊耕耘ジャー なのーん!」
「幸運ジャー??」
「ちっち、
しあわせの幸運とは違うーん
耕耘機の耕耘なのん」
「へぇ‥そっち系かよ
なんというひねり‥村おこしでも聞いたためしがないぞ」
「そうですよね、聞きませんね」
見れば、れんげは早く戦隊ポーズの真似をしてみたくて、うずうずした顔だった。
「じゃ、やってみるか
戦闘に行くってよりは、農作業に行くって感じだし
それはそれで、円陣組むのと変わんねーと思えば、変わんねーからな」
「のんのん戦隊耕耘ジャー!!!」
戦隊ポーズをとりながら、ふと凸激は思った。
‥まさかこいつ、学級菜園の時にもこれをやる気なんじゃないだろうな。
|きっかけは何でも良かったとりあえず‥再び真ん中 脇に花
1-3)3
‥それから
どことなく、バス停に集まる朝の日課が、電子辞書でお勉強という運びになっていた。
れんげにしても、三人が一緒に電子辞書を使っているというのが
のんのん戦隊としても欠かせないと考えている節があった。
だからだろうか‥当然のように先に来ている二人が勉強しているのだから、蛍もそれに合わせていた。
凸激としては、それはそれで良いと思うものの
何かこう腑に落ちないところがあった。
「なぁ、俺が聞くのもなんだけどさ、ここの朝って前からこんなに勉強熱心だったのか?」
「そうですね、前はもっとのんびりとあれこれしゃべり込んでましたね
でも良いんじゃないでしょうか
学生の本分は勉強ですし、帰りは惚けてますし‥」
「流れとしても
これはこれで、こういうものなのん
それとも、とっつんは、何か勉強以外にしたいことがあるのん?」
「したいことねぇ、そうだなー
できれば、俺、レッドだから真ん中に座りたいんだけど‥」
「とっつんが真ん中に座ったら
ウチは分からないところを誰に聞けばいいのんな?」
「へーい、それもそうでした」
|道具ちがえば変われる日常の 思わぬかたちに好きも嫌いも
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