↓3)向宜詠吟.2016/08/14
|流れゆく水の光や川とんぼ 裾野市・寿大学俳句教室
|流れゆく○の光や○とんぼ
一見よく詠めているようでいて、実にツッコミ甲斐のある構成がされている。
とくに○とした部分を欠くと、途端に場所が不明になる。
はじめの○に川を放り込めば、とんぼの種類を放り込めるようになるし、別の季語でも構わない。
|流れ飛ぶ水辺の王者オニヤンマ
|流れゆく河の光や鮎跳ねる
‥なんて具合か
ところで、流れゆくとしているのは、何だろうか?
川だろうか、水だろうか、歳月だろうか、それともトンボの飛翔の光景か?
‥どうしたって全部だろう。
ならば、そこの所の持ち味を引っ張り出そうとしたら「水の光‥」では弱すぎる。
‥なんとな〜く、格好良さげな響きに釣られて、全体の構成を窮屈にしている。
‥水の光といったら、主体は水面の反射そのものになってしまうわけだから
|流れゆく水の光や夏ホース
‥なんて具合か
「流れゆく○の光や」という節の○の中に、背景を置いてしまう勢いがあるわけだから
舞台の主役を次に持って来るという構成になっている。
1-3)1
|音もなく散り重なりぬ垣の薔薇 裾野市・寿大学俳句教室
|音もなく散り重なりぬ○の薔薇
こちらも、実にツッコミ甲斐のある詠みになってしまっている。
‥まず「垣の薔薇」は、やっちまったって所だろう。
現時点で垣に薔薇はあるだろうか?、散ってしまってまったく無いそういう印象だ。
じゃ、垣に薔薇はないんだから、垣の薔薇ではない。
すでに散ってしまってるんだから、垣に薔薇は無いのだ。そこにあるのは薔薇の茎でしかない。
咲いていてこそ季語。散ってしまった垣なんざなんであれ季語に相応しくない。
そうなると、○の部分をもっとよく吟味する必要がある。
‥むしろ、○の部分をどうするのかがテーマにあった。
> そこをなんとなく、散り重なったはかなさを詠もうという着想だが
そんなのは何もこの日が始めてでは無い。どこにでも転がっている日常だ。桜がそうだろう。
たまたま園芸で薔薇を始めましたところ‥その散り方にインパクトを覚えました。
はい、その気持ちはあるでしょう。でも、珍しい光景ではありません。日常です。
そう考えると、「音もなく」なんて出だしは大げさすぎる。
大げさすぎるわりには、そこを説明しなければならず、
「散り重なりぬ」の立ち位置にしても、「音もなく」を説明するだけの受けでしかない。
‥で
季語が「薔薇」で決定事項に有るもんだから、
ここで盛り返すべき所だったが、平凡に「垣の薔薇」と締めくくってお終いだ。
‥ちっとも工夫味に欠いて面白くない。
↓そこで、考えたのが
|音もなく散り重なりぬ昏れし薔薇
こうすると多少は整って見えてくるが、それにしたって
「昏れし薔薇」の印象が強烈で、前の十二音が無駄に思えてくる。
‥もっと他に、着眼を持ってこられそうな空気がそこに渦巻きはじめる。
(大体だ、桜だって、こんなにクドく詠まねぇだろうに)
|革命や流れし血の数 昏れし薔薇
|しみじみと祈りを捧げ昏れし薔薇
|忘れない。刻みし顔と名 昏れし薔薇
|さよなら‥また再びと昏れし薔薇
‥こんな感じで、言葉を放り込むと、如何にも黙祷している光景が並びだす。
‥さすがに桜ではこうはならない。これこそが、薔薇の持つインパクトということか。
‥いやぁ、有り難い。良い勉強になりました。
1-3)2
|和太鼓を継ぐ子等のゐて堂涼し 裾野市・寿大学俳句教室
|和太鼓を継ぐ子等のゐて堂の汗 手直し
え、どうして「涼し」なんすか?、流れとして意味が無いでしょう。
どうしたって、「堂の汗」と詠み、そこに芽生えた光景に清々しさを感じてもらいたいのが筋。
‥詠み手自ら「涼し」なんて先読みしてしまっては、破綻している。
まるで、「これで将来安泰ね」なんて気持ちが見え見えで、逆に不愉快になっちまう。
‥てめえの目の黒いうちだけ安泰なら良いだなんて、余計だ。
|新しい補聴器で聞く夏の音 静岡市ディサービス小平野句会
|新し○補聴器で聞く夏の音
最近の日本語は形容詞が活用しない方向に流れている。
きちんと活用すると○には「き」が入る。つまり「新しき」である。
もっとも句としてのこの辺は、好みの問題で、どうでも好いのだが
社会現象として考えた場合、
‥それじゃ形容詞ってシク活用しなくても良い品詞なんだなって、思うばかりである。
‥文科省でさえこの点はスルーしたままにあるので、気になるところだ。
|薫風や鏡の中に母がいる 静岡市ディサービス小平野句会
‥これはようするに
気がついてみたら自分の顔が母にソックリなっていて驚いた‥という事なんだと思うが
それにしても、下手に弄ると‥
鏡台の中に母にちなんだ道具があったとか、まぁそんなニュアンスにも陥りかねず
それはそれで、普段から鏡を見ていないのかとの疑問が付いてくる。
そう考えると、ずばりそのままに、
「鏡の中に母がいる」の描き出しには、新鮮な驚きを感じざるを得ない。
しかし同時に、どうして「薫風」なんだ?‥と思わずにはいられない。
新鮮な驚きを表すニュアンスとしても、薫風はまずまず適当だし、バランスを感じる。
それにしたって、「それはうれしいことだったんだろうか?」
‥なんというのか、そこん所だけが、煮え切らないというのか‥「チッ」って感じ。
1-3)3
|夕立に心地よさそな地蔵かな 裾野市・寿大学俳句教室
|新じゃがのほくほく煮える朝の膳 富士宮市・裸子・玉藻句会
|五月晴れ窓みな開けて風通す 富士宮市・裸子・玉藻句会
|子の好きなレタスを採りて宅急便 静岡市ディサービス小平野句会
|ふたつずつ紅い幸せさくらんぼ 静岡市ディサービス小平野句会
|夢に見た自由な日々を持て余す 浜松市・浜松文芸館川柳講座
|腹八分思うそばから手が伸びる 浜松市・浜松文芸館川柳講座
‥なかなか、しあわせそうな光景だな。
平凡の内にあるしあわせ、句なんざそれだけの世界観。
何かデカいことができたら幸せとか、得られたら幸せとか、そんなのは、厚かましいだけなのだが
そこを吟味してから吐き出さないと、なかなか、こうは落ち着かない。
> うた詠み終わります、ありがとうございました。
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