↓14)向宜詠吟.2025/01/11
|アルプスと山羊とチーズと鷹の空 唯それだけの我が孤高かな
|他人とのつき合い拒みアルム小屋 だがな樅の木儂こそ人さ
|あいつらは「おんじ」と嗤いすれ違う 気高き意志に恥ずかしげもなく
|「ああ、独り」くじけるものか雪しまき 絶やさず燃やせ儂の炎
|頼らずに黙して削る冬細工 されど交換せざるを得ぬや
|営みの要のチーズおらが自慢 こだわればこそアルム山小屋
|山羊チーズ背負い下りては ごく普通 やり切れぬとてパンと交換
|何もかもおためごかしや里づき合い 気にくわんとて他に有るまじ
|山羊飼いやふもと付き合い春の鈴「山羊の大将」これにも世話に
|世話になる己に不満 山羊絡み ずっと冬が好いなどとあるまじ
|ヨーゼフは寡黙な儂の折り合わせ 山羊飼いなぞに頼らぬ示し
|いつの間にこやつも寡黙ぞ山羊の犬 賢い奴よ相棒ヨーゼフ
1-14)1
|「こんにちは」肌着の幼 夏アルム 誰の連れかな握手とは
|訪れたデーテの土産は小さな児「二度と来るな」と大人気もなし
|「独りが好い」ただそれだけを奪われて「さてさて」目の前の児に問わん
|人でなしでは無しにやむを得ずハイジとやらをどうすればよいのか‥
|「なに、この児」いきなり「メー」と四つ足で「☆天然それともただの馬鹿★」
|欲が無く自然のままに生きておる 干し草ベッドにハイジを見たり
|椅子一つ作ってやれば天使のよう よろこびまわる椅子を掲げつ
|青空とまきばがドレス夏ハイジ 裸足に肌着すでにアルムっ子
1-14)2
|五歳だが山に行かせる薫る風 本人その気さすが我が孫
|「頼んだぞ」弁当持たせいざケルン 山羊群れ見送るなぜか新鮮
|「草刈や」孫の顔よりまず暮らし 儂の骨太見せるに好機
|この斧は暮らしの支え孫とあり 山羊群れ戻る口笛聞こゆ
|花を摘み土産にすれどしおれたる 花の笑顔は見守ってこそ
|楽しげな夕餉にはずむ夏の小屋 山でのけふを語り出す孫
|鷹ぞ笑むアルムの景色アレやコレ 孫の「どうして」ついつい「それはな」
|薔薇色のアルムの壁に染めらるる「すっかり虜よ」五歳に見えず
1-14)3
|ヒワ拾い親の代わりを始めたり これは見ものと孫を見守る
|飛ぶまでになるとは立派親代わり ひとりでケルンは大人すぎ
|「弁当や」ピッチと共に駆け行かん‥五歳がひとりで‥死にやせんかと
|アルム霧孫ら気になりヨーゼフと 深いのなんのどうにかケルン
|気配なし二人はどこに「ヨーゼフGO」 山羊番するも霧深まりき
|儂は今 村の手綱の山羊と居り「なるほどの‥」やっこさんらの半信半疑
|「戻ったか‥」先ずは安心「で、何だ?」ピッチ助けて山羊の数合わず
|シロとクマ居なくなったと聞かされて かなり真っ青「礼」をせねばな
|三人で弁当とはな霧のケルン 「さぁ食えペーター」儂からの礼
1-14)4
|炙らむとデーテの便り暖の前 お為づくにも「ハイジに学問‥」
|「お陰様羽振り良さげで何よりよ‥」ハイジはもはやアルムの子
|乳搾り五歳の試み夏白露 桶に入らず山羊のせいとは
|デリフリへパンの買い出し汗チーズ 値上げに口論いぶかしく
|老体を押して「いざマイエンフェルト」釣り合うパン屋を探さずんば
|この坂はハイジと暮らす儂の意気 何はともあれマイエンフェルト
|飴見かけよろこぶ顔をと「どら一つ」他にもどっさり帰り道
|デリフリのケチなパン屋のお陰かな これから素通り決め込みぬ
|遅くなりペーター往き会う林道 そんな時間か腹も空きよる
|乳搾り覚えしハイジ自慢顔 これは上手いと疲れとびけり
|口笛も覚えしハイジ夏の暮 儂もとせがまれ「いざ郷響」
1-14)5
|秋アルム五歳にまだ無理風強し 通いを避けてチーズの習い
|鍋を火に乳を焦がさずかき回す 教える先からやりたがり
|「任せて」と言い出すハイジに甘えだし 干し草取り入れちょっくらと
|「まだ五歳‥」儂の期待の大きすぎ 鍋から離れハイジはどこへ
|口笛に気づいた時や見逃しき すっかり焦がし焦げを取る羽目
|「‥そう言えば」樅の木の音聴きに外 前触れありつも抜かりおり
|「帰ったか‥」ユキがどうとかなるほどな 山羊飼いだものな山羊ぞ第一
|そんなにも気に入ったのか風の樅 教われば良いさ山の心得
|昨日の今日、ユキを叩いて急き立てる山羊の躾をハイジが見せり
1-14)6
|ヒワの群れ ピッチも共に秋に立つ‥お別れ中途や「ああ、ハイジ」
|アルムでは冬は越せぬてヒワの秋 春まで待つが人里の習い
|秋の幸 穴場へ狩りに笑むハイジ 栗にヤマブドウ大いに拾い
|まっすぐに別れをし直すハイジかな ペーターからの小鳥を放ち
1-14)7
|雪を見てこれ程までに はしゃぐとは‥嫌でも雪に閉ざされるのに
|吹き込んだ雪を纏いしベッドでも はしゃぐ肌着は寒さ忘るる
|「山羊は来ぬ」寒いと思えば分かりそう 寒くないのか今朝もそうだし
|寡黙つつ手を動かしつ冬に坐す 騒ぎつつあろうこの削り音
|樅の木に山鹿来ては草運ぶ 寒さも雪も手なずけており
|ペーターの訪ね来しかな雪まみれ「お婆さんの用」を残し行き
|ハイジがその気に成りて「どうするか‥」里とのつき合いせざるを得ぬや
|「ペーターの家までならばまぁ良かろう‥」そこから先はどうにもな‥
|孫抱え駆け抜くソリや「いざ白銀」悪くないかも冬の息抜き
|「ペーターの家を直して」「この儂が?」これ程までとはハイジに負けり
|「‥にしても」傷みの酷きペーターっ家 肌のつき合いいざなう軋み
1-14)8
|閉ざされて遊びに行けぬ吹雪模様 尋ねてみても雪は答えね
|晴れ間など一時的だと教えても銃持つ輩は聞きもせず
|いつもなら放っておくのが儂らしさ「孫の前で人でなしでは‥」
|「さて行くか」救助もここに生くる沙汰 巻き添え御免重いぞこやつら
|吹雪去りどうにか生きて月の小屋 助けて聞きし謝意の朝
|礼なんぞ要らぬぞほんとは骸二体 孫の瞳に動かされ
1-14)9
|雪割草流れに香る目覚めの精 アルムの小川に姿見せ
|遠雪崩ねぼけアルムの大あくび 気を張らんとな洗礼ありき
|「気をつけて」遊び盛りは止められぬ 春はそこだし雪は終いだし
|「是はいかん」どこに行ったかあの二人 雨降り出してざわめく予感
|林道に襲い迫るや「ああ雪崩」道に沿い這う轟音躱す
|無事に春迎えて孫と微笑みぬ 花は出はじめ鹿ぞ跳ね行く
|「山好きめ‥」心の中は山羊とケルン ちょっぴり妬けるはしゃぎよう
|指笛や山羊飼い来たり誘う春 久しきハイジを囲みたり
|再会のハイジと駆けてく山羊の群れ 今年も頼むぞペーターよ
|儂だってハイジに何かかまわれたい 買い出しついでにネタ探し
|春帽子ハイジに土産似合うかな よろこび様に し甲斐のありき
1-14)10
|ユキちゃんが潰されちゃうと大騒ぎ「今年限り」の沙汰の春
|山羊飼いに生きる上での非情あり 乳出ぬ山羊は潰すしかなく‥
|ハイジの拒む姿に省みる儂も同じく「お為ごかし」や
|山羊飼いが山羊を生かすも根気にて「乳出る薬草与えたれ」
|毎日がユキちゃん三昧命懸け ヨーゼフまでも山通い
|ついに来た死の宣告や今朝のユキ この日で最後 身に入むまきば
|あきらめない絶対生かすユキ隠し「ハイジがやりよるじゃ儂も」
|シュトラールやって来よった儂の小屋 ハイジに負かされ「もう一年」
|儂よりもハイジが立派ユキ事案 あの子に学校なんぞ無用
1-14)11
|時は今、三度目の冬もう八歳 学校によこせのまた手紙
|火にくべる冬の学校お断り あの子のことだ「お願い‥付き合い‥ああ嫌だ‥」
|里づき合いしたくもないし好かないし 割るる風吹く曽ての三昧
|ハイジから「学校」なんぞと言葉出て これは参った誤魔化しており
|とりあえず「必要ない」と教え込む どうにも屁理屈考えにゃ
|お隣がやって来よった春牧師 村に担がれ学校催促
|山に生き山から学べば十分と 証明したきこの子かな
|すれ違う頑固同士の話し合い 追い返したがいずれまたかも
|牧師との話伝えず乳搾る 背を向けておるどうすればいい‥
|婆さんち行っちゃイカンと「ダメ」を告げ 里との付き合い断固拒否
|「お前まで‥」乳を搾れど動くシロ 儂に見落としなどあるわけも無し
|法廷で争うなどとワル扱い 隣づらして牧師づらして
1-14)12
|このままで済むわけもなしどうするか 取られてたまるか吾がハイジ
|木を削り儂の半生振り返る お互い様や距離ある暮らし
|お前らも勝手なくせに儂ばかり アルムに生きてなぜこうも違う‥
|お前らが平らで‥儂が凸凹‥無勢を削る無知こそ愚かさ
|お前らがどれだけ平らか自覚せず お為ごかしの神の真似なぞ
|その神がどこにも居らぬになぜ正しい 調子尽くめのお為ごかしが
|春の客二人目来たり羽帽子 デーテは「おほほ」ドヤ顔に満つ
|「また来たか‥」デーテのなんと変わりよう 羽振りの良さも儂有りてこそ
|「連れて行く?」ハイジは行かぬと啖呵切り まさかの傾れ我が手を離れ
|裁判がフランクフルトにすげ変わり ハイジの欠片もありもせぬ
1-14)13
|膝を付きそんな馬鹿なを繰り返す 霧氷の儂に戻れというのか
|ペーターの慌てて来たる「ハイジなぜ?」儂とてわからぬ解らぬゆえに
|再びの孤高ぞめぐるなに故か ハイジの居らぬアルムの山など
|初夏の頃ハイジは来たさあのめんこい 干し草ベッドに吾が泪
|舞い降りた天使に見えし「ああ、ハイジ」駆けまわる姿の遠き日々
|乳搾るハイジの顔が想い来て シロもクマも淋しげにあり
|山羊群れを見送る影のなんと無味 昔の儂の気高きなんぞ
|草刈るも暮らしの為との張りの無さ ハイジの笑顔あらずんば‥かな
|張り合いの足りずて思う鍋の前 チーズ作りに変わりも無しに
|チーズ売るハイジのパンはもう要らぬ されど気になるもしもの帰り
|坂道を登り帰るもハイジかな 小屋には居らぬに浮かび来て
|この先もハイジを惜しむアルムかな いつの間にやら鳥籠のよう
|「おお、ハイジ」ハイジが居らな籠の鳥 不甲斐のなさやアルムが籠とは‥
|木を倒す間引きの音に吾問われ していることはデーテと同じ‥
|山暮らし吾のすべだと信じ込み アルムに還すを見いだせね
|生きていく上での素朴に押し寄せる いま以上に何かを問われ
|人里を抱えるアルムもアルムかな 寄り付く命と共にあり
|樅が問う「おぬしがハイジを囲うから」アルムに生きて籠の鳥では
|「不甲斐なし」鳥の自由を閉じ込めき 儂がハイジの鳥籠になりしか
|山だけに生きるばかりが人になし 回る世間ぞ見る目変われと‥
1-14)14
|一人での鷹の空など昔ごと 今やハイジに添うて在りたし
|気づくのが遅うて不覚アルム霧 今更ながらあの日々ぞ夢
|染まるのが穢れゆくのが恐ろしく 距離を置くのは儂の役目と
|学校の一つ二つの戯れ言の取るに足らぬを思えぬて独り
|願うならハイジに添うて歩みたし 曽ての儂を顧みたれば
|もう秋と独りの冬の出戻りを愁う間もなくチーズの仕込み
|駆けてくる肌着のハイジが「なんてこと‥」逃げ出してきたなど是非も無し
|穢れずにアルムの花のあるがまま「お帰りハイジ」儂の笑顔よ
> うた詠み終わります、ありがとうございました。
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